おとうさんがバイクを手放した。




1983年式 ホンダのCB750FC。


以前は通勤に使っていたこともあり

毎日のように乗っていたけど

フリーランスになり通勤の必要がなくなり、

結婚し子どもができて、だんだん

乗る機会が減っていった。


最近では年に何回乗るかというくらい。


「ガレージにカバーかけたままほっとくのは

かわいそうだから、いっそのこと

もっとかわいがってくれる人に譲ったほうが・・・」

とはずっと言っていたんだけど、

やっぱり思い出も多く、なかなかふんぎりが

つかないでいたようだった。



そして先日、意を決して買取業者に電話をかけた。

すると、では夕方に伺います、とのこと。


感慨にふける時間を与えられなかったおとうさんは

業者の人の粘り強い交渉になかなかうんと言えずにいた。


出される条件もこれ以上はないだろうというところまで

がんばってもらっていたし、なにより交渉も

3時間以上に及んでいたので、私が思わず

「いい条件じゃない、決めちゃったら?」と
口を出してしまった。


おとうさんはううん、とうなってから

「わかりました、お願いします」

と言った。



なんやかやの手続きを済ませ、

いよいよバイクとはこれでお別れ。


1


業者のお兄さんが手際よくトラックにバイクを積み込み、

「きちんと整備をして、必ずかわいがってくれる人に

まかせるようにしますから」と言って行ってしまった。

2


これでバイクとは今生の別れになるというのに、

おとうさんはトラックを見送ることなく、

さっさと家に入ろうとしている。


3


「なんだかそっけないなぁ・・・」と思って声をかけると








4







おとうさんは男泣きしていた。









バイクのことを「相棒」と表現したりして、

いわゆるモノであるそれを擬人化して愛する感覚は

正直言って女にはちょっとわからない(と思う)。



でもおとうさんがこのバイクをすごく大事に思っていたのは知ってる。



おとうさんが言うには、バイク乗りって

けっこうバイクの乗換えを頻繁にするらしいんだけど

おとうさんは免許を取得してからずっと

同じバイク一筋で乗り続けてたって。



そういえば結婚前、デートに行くのはいつもバイクだった。


5


待ち合わせの時間になって、エンジン音が聞こえると

おとうさんが来たことがわかってうれしかったっけ。


そうだ、あのバイクはおとうさんが私と出会ってから、

私ともずっと一緒だったんだ。




翌日もおとうさんは

「あそこにさ、雨なのにバイクで2人で行ったよねぇ」

「ここの道で夜中にエンジン止まって、押したなぁ」

と何かというとバイクの思い出が口から出てくる。


共有の思い出を持っているのに、手放すことに対して

背中を押すようなことを言ってしまって、

よくなかったかなぁ・・・と思っていた私は


「バイク、売らないほうがよかった?」


と聞いてみた。


するとおとうさんは意外とすっきりした表情で答えてくれた。




6



バイクといっくんを天秤にかけたわけではないと思う。


でもおとうさんはいっくんと過ごす時間を選んでくれた。



おかあさんはうれしくなった。



そう、


おとうさんはいっくんとの時間をとても大切にしてる。

だから今日もどんなにいそがしくても

時間を作っていっくんと遊んでくれる。


そしてそれは「育児分担」なんていう義務感からなどではなく

おとうさんが「したいからやっている」ことだった。

7


2人が散歩に出る後姿を見送るのが

おかあさんは大好き。



相棒とのお別れはつらかっただろうけど

バイクにはまた乗れる日が来るよ。


大きくなったいっくんが乗りたいと言うかもしれないし。


そのときは一緒にツーリングに行けばいいじゃん!

いろんなところで男の時間を楽しめばいいじゃん?



2人のチーム名は、そう・・・


親子風


なんてどうかな?




8








9



---